2011.02.25 : 平成23年度予算特別委員会
「医療観光」

早坂委員 

 次に、東京における医療観光について伺います。
 平成十五年、小泉総理により訪日外国人観光客の倍増を図るビジット・ジャパン・キャンペーンがスタートしました。当時、年間五百二十万人だった訪日外国人観光客を、平成二十二年には一千万人に倍増させるという目標です。その後、鳩山内閣では、将来的な目標を年間三千万人とふやしています。
 昨年の訪日外国人は、過去最高の八百六十万人に達したものの、目標であった一千万人には達しませんでした。国を挙げてのキャンペーンは、我が国の人口減少を訪日外国人の消費で補おうというのが最大のねらいです。ちなみに、七人の外国人観光客が、定住人口一人の年間消費額百二十一万円と見合うという計算です。
 さて、菅内閣の新経済成長戦略のメニューの一つに、医療観光、メディカルツーリズムがあります。その定義は、治療を受ける目的で外国を旅することであります。東京でもこの医療観光を推進しようという動きがありますが、私からすれば、大きな幻想に踊らされており、かつそれは都民のためにはならないと考えます。
 以下、その理由について述べてまいります。
 海外で医療を受けようとする人の目的は、先端医療を受ける、待機時間をなくす、費用を安く上げるの三つに代表されます。このうち費用に関する優越性から、タイ、インド、シンガポールといったアジアの国々が医療観光の先進国だといわれています。
 タイを例にとると、医療にかかるコストは欧米の五分の一です。では、そのレベルはというと、タイ語の医学書が未整備だったということが逆に幸いして、医学部の学生は英語で勉強する。したがって、最新の知見を身につけることができ、かつアメリカに留学する学生がとても多い。そして、そのアメリカで高い医療技術と流暢な英語を身につけた学生が帰国し、タイ本国の医療の担い手になっているという状況があるようです。
 国際的に有名なバムルンラード国際病院では、欧米の高級ホテルにも負けない設備とホスピタリティーを提供し、かつ料金は、タイ国内最高級といっても、欧米からすればはるかに安いものでおさまります。この病院だけで、年間四十万人の外国人患者を受け入れています。
 一方、我が国では、医療観光はこれからスタートしようという段階です。昨年、ある大手旅行代理店が、四泊五日で百万円という医療観光のツアーを外国人対象に売り出しました。年間の目標は、バムルンラードの実績四十万人に対し、二百人だそうです。
 医療観光推進の目的は、海外の富裕層を我が国に呼び込んで消費拡大を図ることにありますが、現実には、我が国より物価の安い国々がはるかに先行しています。また、日本が医療観光のお客さんと考えている中国、韓国、台湾といった国々では、逆に日本人を医療観光のお客さんとして受け入れる設備、態勢を既に整えています。つまり、世界の医療観光の現状を知らない人が、我が国も門戸を開けばどんどん外国人患者が押し寄せてくるという勝手な幻想に踊らされているだけなのです。
 一方で、我が国では医師不足が大きな問題になっています。海外の富裕層よりも、まず我々日本人患者の命をどう守るかを考えるべきであります。また、海外の富裕層を相手にするということは、健康保険を利用する我々と所得によって享受できる医療に格差が生じ、ひいては国民皆保険制度の崩壊につながります。つまり、我が国の医療観光の議論が経済成長の視点からしかとらえられておらず、国内の医療に与える影響を全く考えていないことに問題があります。
 そこで、医療観光という新しい流れも踏まえて、東京あるいは我が国の医療のあり方について、石原知事のご見解を伺います。

◯石原知事 

 今日、我が国が停滞から脱するためには、目覚ましく発展しております間近なアジアの国々の活力を、日本の経済成長にさまざま取り組んでいく必要があると思います。
 そうした中で医療観光というアイデアも生まれてきたのだと思いますが、世界一の長寿国を支えております我が国の医療技術、加えて日本の四季や多彩な食文化など、さまざまな観光資源を組み合わせるならば、新たな可能性も開けるものとは思います。
 例えば、日本に随所にあります温泉の使い方も、日本では画一的でありますけれども、私も行ったことがありますが、ヨーロッパのカルルスバートとかマリエンバートという有名な保養地は温泉地でありまして、その使い方もちょっと日本と変わっておりますけれども、こういったものも加味すれば、新しい観光、医療を兼ねた産業が興るかもしれません。
 しかしながら、現在の東京の医療需要を考えますと、医師不足、とりわけ小児周産期治療の確保が急務でありまして、また、救急医療体制の強化、がん対策の一段の加速の必要性、また、ある種の薬品や手術に関する日本独特の閉鎖性などの焦眉の問題が山積しております。
 いずれにしても、医療政策の根本に据えるべきものは、あくまでこの都民、国民の安全と安心の確保でありまして、医療観光という新しい動きには注視しつつも、何よりも都民、国民のために、今まさにやらなければならない手だてを揺るぎなく講じていきたいと思っております。

早坂委員 

 救急、小児、精神など、東京の医療に課題が山積する中、限られた医療資源を医療観光に振り分ける余裕はありません。その点をしっかり理解した上で、東京都は医療観光に臨んでいただきたいと思います。