2013.03.13 : 平成25年度予算特別委員会
「東京の「いのち」を守る。―本質的な防災対策―」

早坂委員

 さて、東日本大震災からはや二年、都民の防災意識の高さにこたえるように、あちこちで防災訓練が行われています。本日は、そのあり方について考えてみたいと思います。
 つい先日も、杉並区高円寺にある小学校で行われた防災訓練に参加してまいりました。この小学校は、木造住宅密集地域の中にあり、周辺の火災危険度は五段階評価の四から五。当日の講演会には、阪神・淡路大震災の被災者である、人と防災未来センターの語り部の男性を講師としてお呼びしていました。
 昨年四月に発表された首都直下地震の被害想定によれば、我が杉並区の死者は六百人、このうち七五%が火災により死亡するとされています。区内で最も火災危険度が高い地域で、阪神・淡路大震災の被災者をお呼びしての防災講演会、それだけ聞けばすばらしい企画のはずです。
 しかし、ここで問題にしたいのは、その内容です。講演は、大震災が発生した一月十七日はとても寒く、配給のおにぎりはかちんこちんに凍っていた。自分の家から持ってきたカップラーメンが最高のごちそうだった。三日分でなく七日分の備蓄食料があった方がいいというところからスタート。火災に関しては、杉並のこのあたりは火災危険度が高い地域ですと、わずかに触れたのみでした。
 この語り部の方は、講演なれされていて、お話はそれなりにおもしろく、参加者の満足度は高かったようです。しかし、阪神・淡路でも東日本大震災でも、食料が足りずに亡くなった方はいません。これは首都直下地震でも同じだと思います。
 つまり、備蓄食料は大地震から命を守るための本質ではないにもかかわらず、火災危険度の最も高い地域での防災講演会の印象が、かちんこちんのおにぎりになってしまう。もし今後、この地域で首都直下地震により火災が発生して、この防災訓練の参加者が火災で亡くなるようなことがあった場合、一体だれがその責めを負うのでしょうか。
 たまたま今回の講師がそういう講師だった。杉並区主催の防災訓練なら、そんなお話は杉並区議会ですればいいとお思いかもしれません。ですが、毎年数多くの防災訓練に参加している私の印象としては、実はこの手のお話しか聞いたことがないのです。
 大切なところなので改めて申し上げれば、阪神・淡路の死者の八〇%が倒壊建物や転倒家具の下敷きになって死亡しました。一方で、首都直下地震の死亡原因は、都内全体では、建物倒壊、家具転倒によるものと火災によるものがほぼ半分ずつだと想定されています。
 したがって、大地震から命を守るために最も必要なことが何であるかを防災訓練の参加者に明確に伝えた上で、そのための訓練がこれです、となるはずですが、優先順位が低い話や訓練ばかりをしているのが現実です。
 町会や自治会には小型ポンプが配置され、初期消火訓練が行われています。小型ポンプの倉庫には貯水槽が併置され、そこから水をとり、放水訓練を行います。しかし、火災現場の前に運よく貯水槽があるでしょうか。水はどこから持ってきますかと私が疑問を投げかけると、防災訓練のリーダーからは、早坂さん、せっかく今練習しているんだから、そのお話は後にしてくださいといわれ、次の年の防災訓練には呼ばれなくなります。
 小型ポンプには、長所と短所があります。短所は、水をためてある貯水槽の設置数に限りがあるところです。
 一方で、この短所を補うのがスタンドパイプです。私なら、こう話します。地震の被害が大きければ大きいほど、消防隊の手が回らず、助けに来てくれない。ならば、自分たちで初期消火をしなければならない。消防隊が使う消火栓が杉並区内には八十メートル四方に一カ所設置されているので、スタンドパイプがあれば相当程度カバーできるはずです。消火栓には圧がかかっているので、このスタンドパイプをつなげれば、ポンプがなくても三階建てまで簡単に放水ができるからです。
 すると、気のきいた人から、大地震が起きれば、断水して消火栓も使えなくなるんじゃないのと声がかかります。そこで、全くそのとおり、スタンドパイプは万能ではありません。ですが、杉並区内の断水率は二五%だとされているので、多くの消火栓は多分使えるでしょう。阪神・淡路でも消火栓の断水が問題になりましたが、このときは水道管がぽきっと折れた。その教訓を生かして、東京都はダクタイル鋳鉄管という強い管にすべて取りかえたので水道管が折れることはない。ただ、水道管と水道管のつなぎ目が地震で外れてしまう可能性があるので、それを耐震つなぎ手というものに今取りかえている最中です。
 首都直下地震の杉並区での死者は最大六百人、そのうちの七五%が火災によるものとされていますから、今、道路を掘り起こして水道工事をしているのは、実は防災のためなんです。
 一方で、小型ポンプは、もし水道管が断水しても、貯水槽なりプールの水が火災の目の前にあれば使える。小型ポンプとスタンドパイプのそれぞれの長所、短所を理解して訓練に臨みましょうと説明をすると、なるほど、さすがはミスター防災となるわけです。
 私の話はいいんですけれども、東京の防災を預かる者としての責務は、震災から犠牲者を一人でも減らすことにあります。私は、このことをテーマに八年間都政に臨んでまいりました。
 おにぎりのおもしろい話は否定しませんが、そこでおしまいにしてはいけません。おにぎりからスタートしてもいい。ただ、命を守るためにはこれだという核心部分に全精力をつぎ込まなければならないと思います。そのためには、地域特性に応じた実効性のある訓練を行うことが必要です。
 東京消防庁の取り組みについてお伺いいたします。

◯北村消防総監

 東京消防庁では、地域住民等による防災マップづくりや軽可搬消防ポンプ、スタンドパイプを活用したまち角での実践的な訓練の指導を推進しております。
 来年度は、木造住宅密集地域を管轄する消防署所を重点に、模擬消火栓を初め、スタンドパイプセットを増強配置し、指導体制の強化を図るとともに、地域の防災リーダーを対象に、初期消火資器材の取り扱いや訓練の実施方法を記載したマニュアルを新たに作成、配布し、住民や自主防災組織などによる訓練体制づくりを推進してまいります。
 今後とも、関係機関と連携して訓練の実効性を高め、より一層地域の初期消火体制の強化に努めてまいります。

早坂委員

 先日、神田のやぶそばで火災が発生し、大きなニュースになりました。このニュースを見て疑問に思ったのは、延焼三軒というところです。東京都が発表した首都直下地震の被害想定によると、火災による千代田区の焼失棟数は、風速八メートルという強風のもとで二軒となっているからです。やぶそばの火災があった日は、そんなに風は強くなかった。にもかかわらず、やぶそばを含めて計四軒が燃えたということは、この被害想定の見積もりは相当甘いのではと思いました。
 ですが、よく調べると、被害想定のいう焼失とは、全焼のことを指します。今回の火災は、やぶそばが半焼で、その他三軒は部分焼でしたから、私の思い違いでありました。
 千代田区には避難場所がありません。首都直下地震での区内の延焼火災はわずか二軒と見込まれているので、避難の必要がなく、つまり防災まちづくりが完了しているからです。
 一方で、この被害想定の火災延焼による建物被害を見ると、品川区が三〇%、大田、目黒、墨田、杉並が二〇%の焼失率となっています。つまり品川では、区内すべての建物のうち三〇%が全焼する。
 では、全焼した建物の向こう三軒両隣は、果たして無傷のままでいられるか。もしかしたら半焼、部分焼になるかもしれない。そうやって言葉を補い想像力を働かせると、焼失率三〇%というそっけない言葉の意味する火災被害の状況がありありと浮かんできます。
 猪瀬知事は、言葉の力をおっしゃいます。被害想定の報告書自体は、無味乾燥で仕方がないとしても、その分厚い冊子のどこがポイントなのか、どうすればその内容が都民に伝わるのか。それが都庁のご担当なり、私たち東京都議会の腕の見せどころだろうと思います。自助、共助を促す東京都からの情報発信について伺います。

◯笠井総務局長

 昨年四月に公表いたしました被害想定では、震度分布に加え、建物倒壊、火災延焼の状況などを被害の程度に応じ地図上に色分けして示したほか、区市町村別の詳細なデータをまとめた概要版を作成するなど、起こり得る被害の実像を的確に伝えるように努めたところでございます。
 都民の自助、共助の取り組みをさらに推進するためには、委員ご指摘のとおり、被害想定の内容だけでなく、関連する具体的対策をあわせて示すことや、さまざまな媒体を通じてより多くの都民の理解を促す工夫が必要だろうと思っております。
 今後、都民向けの普及啓発パンフレットやホームページにおいて、延焼予測から見た初期消火や耐震診断、耐震補強の重要性など記載の充実を図り、都民にわかりやすく伝えるとともに、防災ツイッターの活用など、多面的な情報発信にも取り組んでまいります。

早坂委員

 木造住宅密集地域を抱える地域において、初期消火を担う消防団の役割は極めて重要です。
 先日の本会議での我が党代表質問に対し、総務局長から、消防団に対する支援を強化するという積極的な答弁がありました。支援の内容として、初期消火や救助、救出に必要な資機材の整備が重要です。そこで、東京都内全域での具体的な取り組みについて伺います。

◯笠井総務局長

 消防団は、大規模災害発生時の初期消火や救援活動などで、地域での防災活動の核となる重要な役割を担っており、東京都といたしましても、その活動の充実に向けた多面的な取り組みを強化していく必要があります。このため、来年度、特別区消防団の可搬ポンプ積載車や救助資器材を拡充するとともに、団員の装備品の充実を図ることといたします。
 また、多摩・島しょ地域の消防団の資器材整備に対する補助を新たに行い、例えば、バールやハンマーなど救出救助用の簡易資器材や新型の編み上げ活動靴の整備を進めるなど、都内全域を視野に消防団活動の支援に取り組んでまいります。