2008.03.14 : 平成20年度予算特別委員会(第5号) 本文
「建物の耐震化」

早坂委員

 日付が変わりました。おはようございます。
 まず、震災対策について伺います。
 六千四百人の犠牲者を生んだ阪神・淡路大震災から十三年が経過しました。兵庫県監察医の調べによると、神戸市内で亡くなった三千六百五十一人のうち、実に九五%が地震発生から十五分以内に亡くなっています。すなわち、即死でした。
 あなたは大地震に備えてどんな対策をとっていますかと、どこの防災訓練で尋ねても、水や食料の備蓄、あるいは避難訓練という答えが返ってきます。しかし、事阪神・淡路大震災において、命を守るという意味では、それは全く役に立ちませんでした。即死ということは、水も食料も必要ではなく、地震に襲われた瞬間に生死が決定したのです。
 では、その亡くなった方の死因は何か。圧死や窒息死など、倒壊した建物や転倒した家具の下敷きになったことによる死が八三%、火災による焼死が一五%です。しかし、この火災による焼死も、実際には倒壊した建物の下敷きになり、火災から逃げられなくなったケースがほとんどでありました。
 ここで、テープを聞いていただきたいと思います。阪神・淡路大震災の発生当日、AM神戸・ラジオ関西で放送された神戸市長田区の火災現場からの中継です。(録音聴取)ちょっと長くなりました。お聞きのとおり、倒壊した家屋の下敷きになり動くことができず、生きたまま火に巻き込まれたという内容です。
 地震が起きた瞬間に、私たちの生死は決まります。すなわち、大震災から命を守るためには、地震が来る前に建物の耐震補強、あるいは家具の固定をしておき、その下敷きにならないようにすること以外に方法はありません。備蓄も避難も、仮設住宅も帰宅困難者も、それはすべて生き残った後の話です。しかしながら、率直にいって、阪神・淡路以降も、政治、そして行政は建物の耐震化に熱心ではなかったと思います。
 私は、都議会議員になる前、防災のNPOで活動していました。平成十六年に発生した新潟県中越地震の避難所になっている体育館で、避難しているお年寄りに、視察に訪れた国会議員が、ひざ詰めで声をかけているのを目にしました。おばあさん、大変でしたね、もう大丈夫ですよ、今、一番欲しい物は何ですかと。おばあさんは、早くおふろに入りたい、体育館は疲れるから仮設住宅に入りたいと答えていました。避難所で困っているお年寄りの声をしっかり聞く、防災に熱心な国会議員。実は、これこそが落とし穴だと私は思っています。
 この地震では、阪神・淡路と同じく、建物倒壊の下敷きになるなどして、六十八人が死亡しました。つまりこのときも、地震に襲われた瞬間に生死が決まったのであります。先ほどの防災に熱心な国会議員は、永田町に戻って、被災者用におふろと仮設住宅を用意しただろうと思います。困っている被災者に直ちに手を差し伸べる国会議員。有権者はその姿を見て拍手を送る。当然選挙も強い。もちろん、そのこと自体はすばらしいことです。しかし、その国会議員は、実は一番大切な人の声を聞いていないと思います。
 それはだれの声か。それは、その地震で亡くなった方の声です。もし私が、その地震で死亡したとすれば、その国会議員に、あるいは自分の大切な家族にいい残したいことは、たった一つしかありません。それは被災者用のおふろの準備でも、仮設住宅でもありません。私のように地震で死なないためには、倒壊した建物の下敷きにならないよう、建物を強くしておけ、その一言です。先ほどの国会議員には、今生きている有権者の声は耳に届きますが、もう投票できなくなった、地震で亡くなった方の声なき声は決して届かないんだろうと思います。
 大震災から命を守るために何が必要かということと、生き残った後、何が必要かということの区別をつけることが必要です。
 最初に、大震災に備えてどんな対策をとっていますかと尋ねると、どこの防災訓練でも、備蓄あるいは避難訓練という答えが返ってくると申し上げました。震災対策の本丸である建物の耐震補強、あるいは家具の転倒防止という答えが返ってきたことは一度もありません。自然現象である地震の発生そのものは防げません。しかし、そこで生じる被害は、私たちの英知によって減らすことができます。
 政治も行政も市民も、地震から命を守るためには、建物を耐震化することが必要だということを、しっかり認識するところからスタートすべきであります。
 東京都は、昨年三月、東京都耐震改修促進計画を発表しました。その主な内容について伺います。

◯只腰都市整備局長

 耐震改修促進計画でございますが、十年後における住宅や建築物の耐震化の具体的な目標を設定しまして、その実現に向けた施策の考え方について明らかにしたものでございます。
 住宅につきましては、現在、耐震化率が七六%でございますが、これを平成二十七年度末までに九〇%とするほか、災害時の拠点となるなど防災上重要な建築物、病院とかでございますが、それにつきましては耐震化率を一〇〇%とすることを目標としております。
 今後、目標の実現に向けまして、木造住宅密集地域の住宅や分譲マンション、緊急輸送道路沿道の建築物などの耐震化を重点的に推進するとともに、公共建築物の耐震化に率先して取り組むこととしております。

早坂委員

 これまで建物の耐震化に行政が余り熱心でなかったのは、建物、すなわち私有財産の補てんを税金で行うのかという議論があるからだと思います。しかしながら、被災者生活再建支援制度により、全壊家屋には住宅再建のために、一世帯当たり三百万円が支給されることになっています。れっきとした税金による私有財産の補てんが予定されているのであります。
 そこで、発想を変えて、地震で建物が全壊した後、どっちみち三百万円支給することになるならば、地震が来る前に、つまり大切な生命と財産が失われる前に、仮にその中から十万でも二十万でも先に渡して、最低限の生存空間を守るための工事を行っていただくことの方が結果として安く済むし、税金の有効活用につながるだろうと思います。提案をしておきます。
 生活再建支援の充実は、先ほどの防災に熱心な国会議員の活躍の成果だと思います。しかし、もうこれ以上の充実は必要ないと思います。もちろん住宅が全壊して困っている被災者にとっては、五百万に、一千万にしてほしいだろうと思います。しかし、それは地震から命を守ることにはつながらないのです。むしろ逆に、全壊したら五百万円くれるなら、自分でお金を出して耐震補強工事をするなんてもったいないと考える人が生まれないかと心配です。
 生活再建支援の充実は結構なことですが、それより先に、地震に襲われる前の耐震補強工事にこそ力を入れるべきであります。
 東京都は、昨年十二月、民間建築物等の耐震化促進実施計画を発表しました。その主な内容と今後の取り組みについて伺います。

◯只腰都市整備局長

 建物の耐震化を促進するためには、今お話しございましたように、自助の観点から、所有者の自覚と行動を強く促していくことが重要でございます。今後、都として、広報・普及啓発活動に力を入れていく覚悟でございます。
 先週の土曜日から今週の月曜日にかけて三日間でございますが、新宿の西口で、住宅の耐震化に関する展示会、見学会などを総合的に行う住まいの耐震フェアを実施いたしました。非常に大きな反響がございました。こうしたイベントを今後も継続的に実施するほか、来年度からは区市町村と連携して、建物所有者への直接的な働きかけを行ってまいります。
 また、先ほどもお答えいたしましたとおり、震災の悲惨さを映像で伝え、耐震化への取り組みを促すDVDを制作いたしまして、各種施設やイベント会場で上映するなど、広く広報事業に活用してまいります。
 こうした取り組みを重層的かつ波状的に行うことによりまして、建物所有者の防災意識を高め、耐震化を促進してまいります。

早坂委員

 ところで、都内では年平均八万戸のリフォーム工事が行われています。せっかくのこのチャンスを耐震化に生かさない手はないだろうし、あるいは賃貸アパートや借家には耐震化を義務づけることも考えられると思います。うんと乱暴にいえば、命の保障がない危険な商品、すなわち住宅を売っているのと同じことであります。
 平成十七年の姉歯建築士による耐震偽装問題では、日本じゅうが殺人マンションといって大騒ぎになりました。しかし、それより耐震強度の低い建物は、今日でもまだ膨大にあります。一部分を見て大騒ぎするが、もっと大きな問題には気がつかない。東京都は、実効的な耐震化施策の充実にさらに取り組んでいただきたいと思います。
 今後三十年以内にマグニチュード七クラスの大地震の発生確率は七〇%、気をつけなくてはならないのは、地震が三十年後に起きるのではなく、きょう起きる可能性も含めて七〇%だということです。
 大地震の発生と耐震化の取り組みは時間との闘いです。私も東京都議会議員として、石原知事としっかり力を合わせて、その役割を果たしてまいりたいと思います。