2008.03.14 : 平成20年度予算特別委員会(第5号) 本文
「地球温暖化対策」
◯早坂委員
次に、地球温暖化対策について伺います。
温暖化問題は、端的にいえば、産業革命以降、人類がCO2などの温暖化効果ガスを自然界が吸収できる量以上に排出するようになったため、地球全体の平均気温が上昇し、それが深刻な影響を与えていることが確実視されているということであります。
地球全体では、年間に三十一億トンまでのCO2なら自然界が吸収できます。しかしながら、産業革命以降、人類は石油や天然ガスなどの化石燃料を燃やすことによって、経済発展と人口増加を支えてきました。IPCCによれば、一九九〇年の地球全体の排出は六十三億トン、この時点で自然界の吸収量の二倍を超えています。しかも、今日ではCO2の増加は加速度的に進んでおり、七十二億トンを超えています。このままのペースで排出し続けると、人間の活動による影響で、もはや回復不可能な気候変動が急激にもたらされる可能性があります。
もし、地球全体の平均気温が三度上昇すると、干ばつが十年に一回発生し、四十億人が水不足になる。あるいは五十億人が洪水の危険にさらされるなど、想像を超えたリスクを全人類が負うことになります。すなわち、地球温暖化を二〇五〇年時点で現状比プラス二度に抑えられるかどうかが、人類が最悪の結果を迎えるか否かの分かれ目だとされています。
一九九七年の京都議定書によって、人類は初めて、CO2に代表される温暖化ガスの排出量削減に合意しました。これが京都議定書の歴史的な意義であります。
ここまでの話だと、CO2は悪者だから容赦なく減らせということになります。しかし、人類のあらゆる活動には、必然的にエネルギー消費を伴います。CO2半減のためとはいえ、地球全体で一年のうち半年間、電気とガス、ガソリンを燃やす自動車も一切使わないという話なら現実味は全くありません。ましてや、地球全体で見ると、人口の増加や発展途上国の近代化に伴い、エネルギー消費量がますますふえています。
こうした中で、現在の生活水準を損なうことなく、地球全体のCO2排出量を半減させるということは極めて困難な挑戦ですが、これに地球全体の生死がかかっているのです。
以下、着実な削減と成長の両立に、東京に何ができるかを考えてみたいと思います。
二〇〇五年度における都内の産業・業務部門の排出量は、排出量全体の四割を占めています。このうち、産業部門では対九〇年比で四四%の排出量削減に成功していますが、業務部門では三三%も排出量が増加するなど、東京における温暖化対策を着実に進めるためには、業務部門における削減が必要です。
東京都は、二〇〇二年度、平成十四年度から全国に先駆け、地球温暖化対策計画書制度を構築し、対策を進めてきました。今では一千三百の大規模事業所が参加しています。このたびの排出量削減義務化は、この制度を強化するものですが、義務化という重い選択、決断をするに至った理由を伺います。
◯吉川環境局長
平成十七年度から開始いたしました現行の地球温暖化対策計画書制度のもとでは、当初、対象となる大規模事業所の約三分の二で、適切な室温管理さえ行われないなど、基本的な対策も十分行われておりませんでしたが、その後の都の指導を受けて、事業所が取り組みを見直した結果、ほとんどの事業所で基本的な対策が計画化されるなど、一定の成果を上げてまいりました。
しかし、一方で、最新の省エネ設備への更新など積極的な削減対策を計画化した事業所は全体の四分の一にとどまるなど、事業者の自主的取り組みを前提とする現行制度では、基本的な対策を上回る削減対策までは多くの事業所で計画化されないという限界も明らかになりました。
気候変動の危機を回避するためには、CO2の大幅な総量削減を早期に実現することが必要でございまして、すべての事業所が、より踏み込んだ積極的な削減対策を実施することが求められております。
そのためには、現行制度を自主的取り組みに依存するだけではなくて、総量削減の結果を求める削減義務の制度へと発展させることが必要であり、この削減の義務化を実現することによりまして、削減に消極的な事業者が結果的に取り組みをしなくても済む不公平を取り除くことができるとともに、すべての事業者がCO2の削減費用を事業経営上、負担すべき必要コストとして位置づけることができると考えております。
こうした観点から、CO2の削減義務化を目指すことといたしました。
◯早坂委員
インターネット上で公表されている東京都気候変動対策方針に関するステークホルダーミーティングの議事録を読むと、出席者である相当数の事業者団体から、義務化に対する不安の意見が述べられています。 私は、現在の生活水準を維持向上させつつ、また、そのための経済活動も損なうことなくという前提で話をしています。このことに配慮をしない施策は、結果的にうまくいかなくなるだろうと思います。
東京は我が国経済の牽引車です。牽引車を失速させず、円滑に走らせながら、CO2を削減していかなければならない。この視点を忘れて、創意工夫を失った官僚的で硬直的な政策を強行しても、都民は幸せになりません。このことを強く指摘しておきたいと思います。
他方、家庭部門は、都内全体の排出量の四分の一を占めています。家庭で使う白熱球を電球型蛍光ランプに交換すると、一個当たり八〇%もエネルギーの節約になります。このように省エネ技術は確実に進化しているにもかかわらず、家庭部門における排出量は、逆に一六%増加しています。これは世帯数の増加と、それに伴う家電製品の保有台数の増加に伴うものであろうと思います。
東京都は、家庭部門における排出量削減に関して、都民にどのような意識啓発を行っているのか、伺います。
◯吉川環境局長
都は、平成十四年、全国に先駆けまして、家電製品の省エネ性能をわかりやすく表示するラベリング制度を創設し、その活用によって省エネ性能の高いエアコン、冷蔵庫などの製品が選択されるよう都民への普及啓発を進めてまいりました。
また、昨年夏からは、省エネ、節電の取り組みがCO2の削減に直結することを示すため、スーパー、電気店等と連携し、白熱球一掃作戦を展開しております。
さらに、この二月には、温暖化防止の普及啓発活動の拠点となる地球温暖化防止活動推進センターを指定いたしました。今後、このセンターを活用するとともに、区市町村等との連携を強化し、家庭で取り組める具体的でわかりやすいCO2削減対策について意識啓発を行ってまいります。
◯早坂委員
次に、運輸部門における排出量削減について伺います。 運輸部門の排出量は減少してはいるものの、依然として都内全体の排出量の四分の一を占める高い割合を占めており、その削減が急務になっています。
運輸部門の排出量のうち、その九割は自動車部門が占めており、さらにその六割は乗用車によるものです。そのため、乗用車に対する取り組みを積極的に講じる必要があります。次世代の乗用車には電気自動車と燃料電池自動車が有望視されています。
こういった事情を踏まえ、乗用車からのCO2削減のため、東京都はどのような対策を講じていくのか、伺います。
◯吉川環境局長
都は、都民や事業者に対しまして、環境負荷の少ないハイブリッド車等の自動車の普及に努めるとともに、環境に配慮して自動車を運転するエコドライブの推進や、電車やバス等の公共交通機関への転換促進を図るなど、乗用車から排出されるCO2を削減するための取り組みを進めております。
今後とも、電気自動車等の次世代車の開発普及動向も視野に入れた低燃費車の利用等を促すガイドラインの策定や地域における人や物の流れに着目した環境交通モデル事業の展開を含め、さまざまな施策に積極的に取り組んでまいります。
◯早坂委員
乗用車といっても、その使用実態は、買い物や通勤通学、営業活動など、都民あるいは事業者ごとにさまざまであり、都内においては公共交通機関が発達しているにもかかわらず、乗用車の利用が多く見受けられます。
その中でも、特に日中、営業活動で使用されている乗用車は、走行時間が長く、また延べ走行距離も長いため、CO2の排出に関し、環境にかなりの負荷をかけていることは想像にかたくありません。エコドライブや電気自動車の普及促進もCO2削減の一助になると思いますが、自動車の使用抑制など、もう少し踏み込んだ対策が必要です。
本年一月の報道発表によれば、東京都は、製薬業界に対し、自動車使用の見直しの取り組みを要請したとあります。車の使用が当たり前となっている営業の世界において、車に頼らない新しいビジネススタイルとして、他の事業者への波及も期待されるところです。
そこで、この取り組み内容と今後の展開について伺います。
◯吉川環境局長
営業活動で使用する乗用車について、日本製薬工業協会は、東京都の要請を受け、本年二月から協会に加盟する製薬会社の都内営業所百三十カ所を対象といたしまして、その使用の見直しの取り組みを開始いたしました。
具体的には、車を使わずに、徒歩や自転車、または公共交通機関を利用する日を設けたり、車の相乗りの励行などを通じ、過度な自動車使用からの脱却を目指すものでございます。
今後、七月までの半年間にわたる各製薬会社の取り組みにおけるCO2削減効果や課題などを踏まえた上で、他の業界に対しましても、その実情に応じ、自動車の使用抑制に取り組むよう促してまいります。
◯早坂委員
ニューヨークのブルームバーグ市長は、二〇一二年までに一万三千台のタクシーの全車両をハイブリッド化する計画を進めています。この計画の特徴は、行政からの助成金なしでイエローキャブを全車ハイブリッドへ切りかえすることにあります。 ハイブリッド化することによって、燃料費が年間一台当たり一万ドル、つまり百万円が節約できるため、五年あれば乗りかえのコストを回収できるという計算です。ハイブリッド車以外の車種を直接禁止するのではなく、厳しい燃費基準を設定することで、事実上、ハイブリッド以外の車種は締め出されるという仕組みです。これにより、乗用車三万二千台を削減したのと同じCO2削減効果が見込まれています。
ロンドンでは、中心市街地に進入する自動車に渋滞税がかけられますが、エコカーは対象外とされています。諸外国の事例を踏まえ、東京都もあらゆる手段を講じるべきであります。
時に、そもそも我が国全体のCO2排出量は、世界の五%未満です。一方で、京都議定書に批准していないアメリカと削減義務を負わない中国の二カ国で、全世界の四〇%を排出しています。そのほか、発展途上国まで含めると、全世界の七〇%が削減義務を負っていない国々からの排出であります。
我が国は、二度のオイルショックを経験し、世界で最先端の省エネ技術を誇っています。我が国の省エネ技術がいかに進んでいるかを示すデータが、国別のGDP当たりのCO2排出量です。これによると、マスコミなどで盛んに環境先進国としてもてはやされているドイツでも、我が国の一・七倍、中国は十倍、ロシアに至っては十八倍であります。同じ単位量のアウトプットを得るために、我が国の技術がいかに環境に負荷をかけず、効率よく富を生み出しているのかがわかります。
地球温暖化対策は、地球全体での取り組みが必要であり、ひとり我が国だけが、あるいは東京都だけが排出量を削減しただけでは解決できない問題であります。繰り返しになりますが、現在の生活水準を維持向上させつつ、また、そのための事業活動を円滑に行いながら、同時にCO2削減に努力していかなければなりません。
環境対策のトップランナーである我が国が、さらに努力するのはもちろんですが、エネルギー効率のはるかに悪いそれらの国々に我が国の技術を普及させることで、圧倒的なCO2排出削減効果をもらたすのではないでしょうか。
そして、二〇一六年東京オリンピックを活用して、環境に負荷をかけない新しい都市モデルを全世界に発信すべきだと考えます。知事のご見解を伺います。
◯石原知事
東京の都民一人当たりのCO2の排出量は、ニューヨーク、ロンドンなどに比べ二、三割低く、現在、既に先進国の大都市の中ではエネルギー効率の高い都市となっております。ゆえにも、欧米の大都市会議の主唱者のロンドンのリビングストン市長は、東京にこの会議への参加を呼びかけてまいりました。
このように相対的にエネルギー効率の高い東京が、みずから日本の誇る省エネ技術を活用してCO2を劇的に削減するとともに、環境技術の普及を先導する新たな都市モデルを早期に構築することは、アジアを初め、世界の温暖化対策に大きく寄与するものと考えております。
このような観点から、都は現在、カーボンマイナス東京十年プロジェクトに全庁を挙げて取り組んでおりまして、「十年後の東京」で掲げた世界で最も環境負荷の少ない都市という近未来図を着実に実現して、これもあわせて二〇一六年の東京オリンピックに、世界に向かって発信していきたいと思っております。
◯早坂委員
削減義務を負っていないアメリカ、中国、ロシア、インドの四カ国で全世界の半分のCO2を排出しています。地球温暖化に本当に危機感を持つのなら、たとえ内政干渉になってでも、これら世界最大のCO2排出国に、我が国のCO2削減、省エネ技術を輸出し、CO2排出削減を強く迫るべきだと考えます。
かつて知事は、東京から日本を変えるとおっしゃいました。今、地球を救うために、東京から世界を変えるという意気込みが必要ではないでしょうか。最も本質的なところに切り込んでいかなければ、温暖化は解決しないと考えます。知事のご見解を伺います。
◯石原知事
お話の四カ国は、合計して世界のCO2排出量のおよそ半分を排出しておりまして、これらの国々がしっかりと排出削減に取り組むことが必要でありますが、そのためには、すべての国が参加した排出削減の新たな枠組みを一刻も早くつくり上げなければならないと思います。
しかし、リビングストンの招待に応じて参加しましたニューヨークの会議でも、私が主張しましたジョイントコミュニケに、京都議定書に参加していないアメリカ、ブルームバーグの祖国でありますアメリカ、それから中国、ブラジル、オーストラリアといった主要な国々が参加していないのはおかしいから、この参加を呼びかけろと申しましたら、なぜか知らぬけれども、彼は非常にリラクタントで、実現しませんでした。
いずれにしろ、これは世界的な傾向でありまして、昨年のCOP13のバリ会議では、参加国の間で向こう二年間のスケジュールを決めただけで終わりました。我が国も、洞爺湖サミットを控えながら、実効性のあるCO2排出削減策をいまだに決定できずにおります。
排出削減の本格的な実施が、国際的にも国内的にも極めておくれている中で、本来大きな役割を果たすべき日本のすぐれた省エネ技術、例えばソーラー発電システムなども、国内では使用する人が非常に少ないというのが残念な現況でございます。国がなかなか責任を果たさないならば、世界の大都市が先頭を切って手本を示して、世界全体を動かしていく必要があると思っております。